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コラム

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ナノインデンテーション試験とは?規格の考え方から試験条件、測定時の注意点まで解説

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ナノインデンテーション試験は、表面から数百ナノメートルという浅い領域の硬さを測る手法です。薄膜コーティングや微細な電子部品の開発では、従来の硬さ試験は押し込みが深く、下地の硬さまで測定値に含まれることがあります。押し込む力と押込み深さを連続して記録し、その曲線を解析して硬さと弾性率を導く方式であれば、膜そのものの特性を取り出せます。規格に沿った手順で試験を組み、装置の校正と圧子先端の補正を定期的に行うことで、ほかの測定とも比べられるデータになります。

本記事では、ナノインデンテーション試験について、規格の考え方や試験条件の決め方、測定時の注意点まで解説します。

目次

ナノインデンテーションとは?

ナノインデンテーションは、圧痕を顕微鏡で観察せずに硬さを求める点で、従来の硬さ試験と発想が異なります。どのような試験なのかを、言葉の意味にさかのぼって解説します。

「インデンテーション(押し込み)」という言葉の意味

インデンテーションは、英語のindentation(くぼみ、押し込み)に由来する言葉です。硬さ試験では、硬い先端部品を材料に押し当ててくぼみをつける操作を指し、先端部品を圧子、残ったくぼみを圧痕と呼びます。押し込みの深さをナノメートル単位まで小さくしたものが、ナノインデンテーションです。国内では超微小押込み硬さ試験とも呼ばれ、国際規格「ISO 14577」では計装化押込み硬さ試験という名称が使われています。計装化とは、試験中の荷重と深さをセンサー等で記録し続けることです。従来の試験が圧痕の大きさを計測するのに対し、ナノインデンテーションは押し込みの過程そのものを測定します。

押した力と沈んだ深さから硬さを求める仕組み

ナノインデンテーション試験では、押し込む力(荷重)と沈み込んだ深さ(変位)を同時に記録し、荷重-変位曲線にまとめます。押込み硬さは、最大荷重を圧子と材料の接触投影面積(真上から見た接触部分の面積)で割った値として算出されます。接触投影面積は、標準試料で求めておいた圧子の先端形状と、圧子が実際に材料と接している深さ(接触深さ)を組み合わせて計算します。弾性率の算出には、除荷を始めた直後の曲線の傾きを用います。傾きには、材料が元の形に戻ろうとする性質が表れます。こうして得る押込み弾性率は、引張試験などで得るヤング率と必ず一致するとも限りませんが、比較することができます。押し込みと除荷を続けて記録することで、1回の試験で硬さと弾性率を同時に得られます。

研究開発や品質管理の現場で使われる背景

研究開発や品質管理でナノインデンテーション試験が広がった背景には、評価したい層がマイクロメートル以下まで薄くなったことがあります。半導体の絶縁膜や、切削工具・摺動部品に使われるDLC(ダイヤモンドライクカーボン)などの硬質皮膜は、いずれもごく薄い層です。従来の深さで押し込むと圧子が層を突き抜け、下地の性質まで値に混ざります。層の内側だけを押し込める手法として、ナノインデンテーション試験が選ばれるようになりました。

現場での主な使われ方は、次のとおりです。

  • 材料開発: 組成や配合を変えた試作材の力学特性の比較
  • 工程開発: 成膜温度や処理時間を変えた際の膜質の評価
  • 品質管理: 製造ロットごとの表面硬さのばらつきの把握

いずれも、膜や表層に限った特性を数値で比べる使い方です。

硬さ試験におけるナノインデンテーション試験の位置づけ

硬さ試験には複数の方式があり、評価したい深さや試料の大きさで使い分けられています。ナノインデンテーション試験がどのような場面で選ばれるのかを整理します。

ビッカース・ロックウェル・ブリネルなど従来の硬さ試験との違い

ナノインデンテーション試験の硬さは、従来の試験とは定義が異なる値です。たとえばビッカース硬さは、試験力を試験後に残った圧痕の表面積で割った値です。ナノインデンテーション試験では、除荷曲線をもとに求めた接触投影面積を分母にします。面積の取り方が違うため、同じ材料でも数値はそろいません。押し込む深さも異なり、従来の試験では数マイクロメートル以上、深いものでは数百マイクロメートルまで押し込みます。

各方式で測る量は、次のとおりです。

  • ビッカース硬さ試験: 四角錐の圧子でつけた圧痕の対角線の長さ
  • ロックウェル硬さ試験: 円錐または球の圧子を二段階の試験力で押し込んだ後、初めの試験力に戻したときのくぼみの永久変形量
  • ブリネル硬さ試験: 超硬合金球でつけた圧痕の直径

 

薄膜や微小領域の評価にナノインデンテーション試験が選ばれる理由

ナノインデンテーション試験が薄膜や微小領域で選ばれるのは、光学顕微鏡では寸法を正確に測れない小さな圧痕でも硬さを算出できるからです。圧痕の寸法を読む方式では、くぼみが小さくなるほど読み取りの誤差が増えます。対角線がサブミクロンまで縮むと、光学顕微鏡では輪郭を正確にとらえられません。荷重と深さで面積を割り出す方式であれば、圧痕の観察は不要です。また、圧痕が小さい分、微小領域の測定も可能になります。結晶粒一つや断面の層一つを狙い、位置をずらしながら硬さの分布を調べることもできます。測りたい部位の大きさは、硬さ試験の方式を選ぶ際の目安になります。

ナノインデンテーション試験の規格

ナノインデンテーション試験の進め方と解析方法は、規格で定められています。規格の考え方を、試験の流れに沿って紹介します。

ISO 14577(計装化押込み硬さ試験)とJIS Z 2255(超微小負荷硬さ試験方法)

ナノインデンテーション試験の中心となる規格は、国際規格の「ISO 14577」です。押し込み深さ0.2マイクロメートル以下をナノ領域と定めています。ナノ領域では算出値が圧子先端の形状に強く依存するとして、装置と圧子形状の入念な校正を求めています。最新版は、2026年6月に発行された第1部の第3版(「ISO 14577-1:2026」)です。

社外の測定値と比べる可能性があれば、試験報告書に準拠規格と版、圧子先端の補正条件まで記載しておきます。

「負荷・保持・除荷」で構成される試験手順

試験は、圧子が試料表面に検出した位置を深さの原点とし、荷重を加える、保つ、抜くという三つの段階で進みます。最初の表面検出がずれると、以降の深さがすべてずれ、接触面積の計算にも誤差が生じます。各段階ごとの速度や時間は、試料の性質に合わせて設定します。とくに時間とともに変形が進む材料では、保持が短いと沈み込みが除荷曲線に残り、弾性率の算出に影響が出ることがあります。

各段階の内容は次のとおりです。

  • 負荷: 一定の速度で荷重を増やし、最大荷重まで押し込む工程
  • 保持: 最大荷重を保ち、時間とともに進む沈み込み(クリープ)を落ち着かせる段階
  • 除荷: 荷重を減らして圧子を戻し、弾性による回復を記録する過程

保持時間は試料のクリープ特性を見ながら決め、時間依存の変形が除荷曲線に混ざる量を抑えます。

硬さと弾性率を導く「Oliver-Pharr法」の考え方

Oliver-Pharr法は、除荷曲線の傾きを手がかりに接触深さを求め、硬さと弾性率を算出する解析法です。1992年にWarren C. Oliver氏とGeorge M. Pharr氏が提唱した手法で、「ISO 14577」の計算方法も同じ考え方に基づいています。押し込んでいる間、圧子の周りの材料は弾性的にたわんでいます。圧子と実際に接している深さは、測定された最大深さより、たわみの分だけ浅くなります。たわみの大きさは、除荷を始めた直後の曲線の傾きで見積もれます。最大深さとたわみ分の差を接触深さとし、その深さで投影面積を計算したうえで、最大荷重を面積で割って硬さを出します。弾性率は傾きと面積の関係を使って算出し、ダイヤモンド圧子自身のわずかな変形も補正して試料の値を導きます。

ナノインデンテーション試験の条件設定

同じ試料でも、押し込む深さや圧子の選び方によって値は変わります。試験前に決めておく条件を解説します。

膜厚の10分の1以下に抑えたい「押し込み深さ」

薄膜を測る際は、押し込み深さを膜厚の10分の1以下に抑えるのが一般的な目安です。圧子の下では、押し込んだ深さより広い範囲が変形しています。深く押すほど変形が下地まで届き、下地の硬さが膜の値に重なります。10分の1という比率は、あくまで経験則にすぎません。弾性率は硬さより下地の影響を受けやすく、それより浅い深さで値がずれることもあります。厚さ100ナノメートルの膜であれば、押し込み深さの上限は10ナノメートル前後です。深さを変えて数点を測り、値の変化を追うことで、下地の影響の程度を見積もれます。

材料の性質に応じて設定する「試験荷重」

試験荷重は、材料の硬さをもとに見積もった、狙う深さに届く値に設定します。同じ深さまで押し込むのに必要な荷重は、材料によって異なります。硬いセラミックスでは大きな荷重が要り、軟らかい樹脂でははるかに小さな荷重で届きます。荷重には下限もあります。押し込みが浅すぎると、表面の凹凸や圧子先端の丸みが結果に表れます。金属材料などでは、浅いほど硬さが高めに出る寸法効果も知られています。実際には荷重を段階的に変えた予備試験で値が安定する範囲を探し、本試験の荷重を決めます。樹脂のように時間とともに変形が進む材料では、負荷速度によっても硬さが変わります。

形状ごとに特徴が異なる「圧子」の種類

圧子はダイヤモンド製が主流で、先端の形状によって得意な評価が異なります。先端が鋭い圧子は、押し込んだ直後に材料を塑性変形させ、硬さの評価に向きます。先端が丸い圧子では、はじめに弾性変形だけが起こり、途中で塑性変形へ移ります。その移り変わりを読み取ると、材料が降伏し始める点を調べられます。ナノ領域で多く使われるのは三角錐の圧子です。三つの面が一点で交わる三角錐であれば、四角錐より先端を鋭く仕上げられます。

主な形状は次のとおりです。

  • バーコビッチ圧子: 硬さと弾性率の測定に最も広く使われる三角錐
  • キューブコーナー圧子: 立方体の角と同じ角度をもつ、より鋭い先端
  • 球形圧子: 降伏の始まりを調べるのに使われる、なめらかな球面

硬さを比べるのか、変形の始まりを調べるのかによって、選ぶ圧子は変わります。

ナノインデンテーション試験実施時の注意点

ナノインデンテーション試験はナノメートル単位の変位を扱うため、わずかな外乱も結果に表れます。数値がずれる主な要因と、試験前の準備を確認します。

数値のずれにつながる「圧子先端の摩耗」

圧子の先端が摩耗すると、浅く押し込むほど硬さと弾性率がずれます。接触面積は、補正で求めた先端形状をもとに割り出しています。先端が丸くなると、実際の接触面積は計算上の値と食い違います。硬いダイヤモンドでも、硬質皮膜やセラミックスを繰り返し押すうちに先端は少しずつ丸みを帯びます。摩耗の程度は、目視では正確に評価できません。そこで、弾性率が既知の溶融石英などの標準試料を定期的に測り、結果の推移に合わせて先端形状を補正します。補正の履歴を残しておくことで、値がずれた際に原因が圧子と試料のどちらにあるかを切り分けられます。

室温のわずかな変化で生じる「熱ドリフト」

熱ドリフトとは、温度変化による装置や試料の伸び縮みが、押し込み深さとして記録される現象です。鋼の部品は、1℃の温度変化で1メートルあたり約0.012ミリメートル伸び縮みします。長さ10センチメートルの部品でも、0.1℃の変化で約120ナノメートル動く計算です。ナノメートル単位の測定では、この動きと実際の押し込みを区別できません。熱ドリフトの量は、温度が落ち着くまでの時間や試験時間の長さによって変わります。補正には、試験の終盤に低い荷重を一定時間保ち、その間の変位量でドリフト速度を求める方法が一般的です。試料を装置に入れて温度がなじむまで待つことで、補正量そのものを小さく抑えられます。

測定値を乱す「振動」の影響

床や空気から伝わってくる振動は、圧子と試料の位置関係を揺らし、荷重-変位曲線にノイズとして重なります。人の歩行や空調設備、建物の外を通る車両の揺れは、床を通じて装置に届きます。人が感じ取れない数ナノメートルの振幅でも、10ナノメートルを狙う試験では深さの数割にあたります。揺れの経路は床に限りません。話し声や扉の開閉による空気の圧力変化も、装置を覆うカバーの内側まで届きます。対策としては、除振台に装置を据え、防音カバーで覆う構成が広く採られています。試験前に荷重をかけずに変位を測っておくと、ノイズの少ない時間帯を選べます。

測定前に確認したい「試料の表面状態と固定方法」

試料の表面は、押し込み深さより十分に小さい凹凸まで整えておきます。圧子が凹凸の斜面に当たると、接触面積が想定と食い違い、測定点ごとに値がばらつくからです。研磨で生じた加工硬化層や表面の汚れも、浅い押し込みでは結果に影響を与えます。固定の仕方も値に表れます。試料が接着剤の層でわずかに沈むと、その沈みが押し込み深さに上乗せされます。柔らかい接着剤や厚い両面テープは避け、薄く硬化する接着剤や専用の治具で固定します。固定後は、表面が試料台と平行になっているかを確かめます。

試験前に把握したい「適用できる試料」の範囲

ナノインデンテーション試験は、平らな面を出せる固体であれば、金属や樹脂など幅広い材料に適用できます。計算上は、試料が均質で、押し込みに対して理想的に変形すると仮定しています。圧痕の縁が盛り上がる現象(パイルアップ)や割れが起きる材料では、算出値に誤差が加わります。試験の可否を分けるのは、材料の種類よりも試料の形と表面の状態です。

向き不向きは次のとおりです。

  • 適用しやすい試料: 平滑な面をもつバルク材、薄膜、樹脂に埋め込んだ断面
  • 条件の工夫が要る試料: 凹凸の大きい面や、時間とともに変形が進む軟質材料
  • 評価が難しい試料: 液体のように形を保てない材料、試料台に収まらない大型品

試料台に収まらない大型の部品も、切り出しや樹脂への埋め込みで試験できることがあります。

エリオニクスが提供する国産ナノインデンテーションテスター「ENT-5」の特長

ENT-5は、エリオニクスが開発・製造する超微小押し込み硬さ試験機で、ENTシリーズの5世代目にあたります。「ISO 14577-1」と「JIS Z 2255」に対応し、メッキや硬質皮膜、DLCなどの極薄膜をはじめ、樹脂やフィルム、微小粒子など幅広い材料を評価できます。

本記事で触れた熱ドリフトや振動、圧子先端の摩耗に対しては、装置側で外乱を抑える設計を取り入れています。風防内部を±0.1 ℃で温度管理し、測定部品には熱膨張の小さいノビナイトを使用しています。除振にはアクティブ除振台を標準で備え、ソフトウェアには圧子先端補正や温度ドリフト補正の機能を搭載しています。連続測定でも、安定したデータを取得できる構成です。

薄膜を測る際の浅い押し込みにも対応します。低荷重ユニットは最小0.5 μNの荷重で試験でき、押し込み深さ10 nm以下の測定でも高い繰り返し再現性を持ち、100 nm以下の極薄膜も測定の対象に入ります。

まとめ

ナノインデンテーション試験は、押し込みの過程を記録し、圧痕を観察せずに硬さと弾性率を求める試験です。押し込みが浅い分、従来は下地の硬さが混ざっていた薄膜や微小領域も評価できます。その反面、ナノ領域の測定値は圧子の形状や温度、振動でずれやすい値です。規格に沿った手順で条件を決め、校正と測定環境を整えることで、比べられるデータになります。測定値の確かさは、装置の性能だけでは決まりません。まずは測りたい部位の厚さを把握し、その厚さを基準に押し込み深さと試験荷重を組み立てましょう。

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エリオニクスは、創業50年以上の歴史をもつ微細加工装置・計測装置のメーカーで、国内メーカーで唯一ナノインデンテーションテスターを製造しています。同社の装置は世界20の国と地域に納入されており、東京大学や京都大学、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)をはじめ、国内外の研究機関や企業で使われています。導入後も、測り方の相談や操作トレーニングを通じて、専門エンジニアが伴走します。

測りたい特性や試料に合わせた装置仕様のご提案と、お見積もり・価格のご案内も行っています。本社ショールームでは最新モデルによるデモンストレーションを無償で実施しており、お客様のサンプルを使ったテスト測定のご相談も承っています。次のような課題をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。

  • 薄膜サンプルで、下地の影響を抑えた測定ができるか試したい
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